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教育現場のデジタル活用がコロナ下で進化 「英語を使って考えるトレーニング」が実現

グローバル教育特集

 

2020年3月2日、新型コロナウイルス感染の拡大により全国の小中高で一斉に臨時休校が始まり、一部の学校が「オンライン授業」の準備を開始した。


大学もこれと同時期に登校を制限し始め、新年度からオンライン授業をスタートさせるところもあった。同年5月に全国で緊急事態が解除され、徐々にキャンパスでの対面授業が再開したが、文部科学省の調査によると、2020年10月の時点で、全国の約半数の大学において、対面授業とオンライン授業を、ほぼ半々の割合で行なっていたそうだ。


感染対策として否応なしに取り組むようになったオンライン授業ではあったが、「これをきっかけに教育現場のデジタル化が一気に加速した」という声もある。具体的に、オンライン授業とはどのようなことを行なうものなのか、デジタル化によって教育現場にどのような変化が起こっているのかを見ていこう。

文科省の「GIGA スクール」で「1人1台端末」の時代に

コロナの影響で教育現場のICT 環境整備が進んだ。

コロナの影響で教育現場のICT 環境整備が進んだ。 | iStock

教育現場では、コンピューターやインターネットの導入を「ICT 化」(ICT= Information and Communication Technology〔情報通信技術〕)と呼ぶ。


これまで主に実施されてきたのは、「パソコンやタブレットなどの端末を生徒に配布する」「プロジェクターや電子黒板を用い、図・画像などを授業で活用する」といったことであり、端末同士が情報を共有するために、校内無線LAN など通信ネットワークを整備することが欠かせない要素となる。


2019年12月、文科省により、「児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する」ために国から学校へ補助金が支払われる「GIGA スクール構想」が発表された。学校教育でのICT 活用を、国家のスタンダードにしようという取り組みである。小中学校の「1人1台端末」については、当初は2023年度末までの達成を目標としていたが、新型コロナウイルス感染拡大下でも生徒たちが自宅で教育を受けられるようにと、目標達成期間が前倒しされた。文科省によると、2021年3月末までに、全国の自治体の97.6% で、「小中学校の1人1台端末」が達成される見込みとなった。

オンライン授業には「オンデマンド」と「双方向」がある

教師と生徒が別々の場所にいながらにして可能な「オンライン授業」を実現させるには、まずパソコンやタブレットのような端末が不可欠である。生徒の側ではスマートフォンを利用するという方法もあるが、レポートを書いて提出するなどといった活動を考えると、キーボードがなく画面が小さいスマートフォンでは不十分だと言わざるを得ない。


学校で実施されるオンライン授業は、教師の説明を録画した動画を作成してサーバーにアップし、生徒が自宅でそれを視聴するといった一方向の「オンデマンド式」と、「Zoom」のような会議用アプリを使って教師と生徒がリアルタイムでやり取りする「双方向式」とに分けられる。Zoom を使った授業では、例えば教師がカメラに向かって説明を行ない、図や画像・動画などを示してクラスの生徒たちが同時にそれを見る。生徒は教師だけでなく、同時に接続しているクラスメート全員に向けて話をすることができ、「チャット」機能を使って文字でメッセージを送ることもできる。


生徒たちの様子をリアルタイムで把握できる「双方向式」の方が理想的であると考えられるが、こうした授業を成功させるには、まず、教師の側にスキルがあることが肝心だ。日ごろ、板書してプリントを配り、生徒を指名して答えさせるという形式で行なっていたものを、カメラに向かって話す、資料をパソコンで表示できるデータにする、さらにZoom では接続している生徒たちを同時にコントロールするという技量が必要となる。通常は長時間かけた研修が必要なように思われるが、オンライン授業を実現させた学校では、昨年3月の休校決定時から1 ヵ月~ 2 ヵ月という短期間で、動画の配信やZoom 授業といったオンラインでの教育を開始している。


生徒の側では、自宅で動画を視聴できるインターネット接続環境と端末を使用するスキルが必要となるが、日ごろスマートフォンを使いこなしている世代だけあって、オンライン授業の環境をさほど抵抗なく受け入れることができたようだ。


2020年5月25日、全国で緊急事態宣言が解除され、学校が徐々に登校を再開、通常通り対面授業を行なうようになったが、各学校で端末やネットワークの設備が整い、教師たちにもICT 環境を使いこなすためのスキルが身に付いてきたため、通常の教室の対面授業でもICT 環境を活用しようという動きが高まっている。

ICT は英語教育において威力を発揮する

文科省によると、コロナ休校以前から、全国の91.7% の高校で、何らかの形でICT 機器の活用を始めていたそうだ。ICT を利用した授業のメリットは、まず何と言っても「分かりやすい」ことにある。図やグラフ、画像や動画などをふんだんに使うことができるため、文字や言葉だけの説明に頼る必要がない。必然的に、生徒の興味や関心を引き付けやすく、生徒がより熱心に授業の活動に取り組むようになるというわけだ。


また、インターネットを利用して学外の人と容易にコミュニケーションを取ることができるというメリットもある。メールやチャットなどでメッセージをやり取りしたり、テレビ会議システムで話し合いをしたりといったことを通して、活動の場が教室の外に広がっていくのである。


ICT は、特に英語教育において効果的であるとされている。音声や動画を利用すれば、発音練習やリスニングのトレーニングがしやすくなる。インターネットを利用し、校外の外国人講師から英語のレッスンを受けることもできる。


現在の学校の英語教育では、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能をバランスよく伸ばすことが求められ、大学入試にもその傾向が表れている。英検など4技能の力を測る英語力測定試験を入試の英語力判定に採用するという計画はいったん見送られたが、各大学で個別に判定の基準に加えている例は多い。


授業のICT 化により、この英語4技能習得に大きく近づくことができるようになった。インターネットを使えば活用できるリスニングの素材が飛躍的に増え、端末に自分の声を録音してAI(人工知能)に発音を評価してもらうということもできる。テレビ電話ができるアプリを使えば、生徒1人1人がマンツーマンで外国人講師から英会話レッスンを受けることができる。何十人という生徒が教師の再生するCD を聞いて授業を受けるという環境に比べ、格段に利便性が高まっているのである。

ICT には「思考力・判断力・表現力」の強化につながるメリットも

文科省の調査によると、高校3年生の英語力の目標を「CEFR」(※外国語能力の国際的標準規格)のA2レベルとした場合、ICT 活用の割合が高い都道府県ほど、A2に到達している学校が多かったそうだ。


また、ICT の活用は、単に語学力の向上だけでなく、やはり現在の学校教育が重視している「思考力・判断力・表現力」の強化にもつながると考えられている。例えば「環境問題について英語で考える」といった課題を出し、生徒がインターネットを使って自分でリサーチを行ない、必要な情報をまとめて自分の端末でプレゼンテーション資料を作り、他の生徒や教師の前で、英語で発表するといった活動が可能になるのだ。オンラインで結べば、他の学校の生徒たちと共同で発表を行なうということも可能だ。

日本の高校では、こういった「思考力・判断力・表現力」を伸ばす「探究」の授業が、来年春から必修となる予定だ。「探究」学習の目的は、グローバル化や変化の激しい社会に対応することにある。


留学対策専門予備校「アゴス・ジャパン」の松永みどりさんは、すでにプレゼンテーション型の授業が実施されているアメリカの大学教育について、こう語る。 「アメリカはIT スキルの先進国ですから、大学では教授も学生も、パソコンを使ったプレゼンテーションに慣れています。デジタルを使った授業に慣れ親しむことは、留学を目指す人にとって必須となってきています」。


普段からICT を活用して英語での発表スキルなどを鍛えることで、将来海外の大学に留学した場合や企業で英語のプレゼンテーションを行なう必要が出てきた際などに、大いに役立つことだろう。


コロナの影響により海外への語学留学や研修旅行に出ることが困難となっているが、ICT は国際交流の面でも大きく貢献している。例えば、国内外でSDGs 活動を実践している獨協大学国際環境経済学科では、コロナ禍の中においてもZoom を利用して、海外の支援先との交流を継続。フィリピンの貧困層の生徒を同大のオンライン英会話のパートナーに招くというプロジェクトが、学生主体で実施されている。こうした活動は、ある意味、現在の状況を最大限に利用したプログラムであると言えるだろう。


ICT の活用は、授業のみならず、学校運営全体の効率化にもつながる。例えば、スイスのレザンという町にキャンパスを置くスイス公文学園高等部は、「Google Classroom」というオンライン教育プラットフォームを導入し、教師間・教師と生徒の間の連絡や、課題の配布と提出、スケジュール管理などに活用している。生徒たちは同校の寮で生活しているが、日本に帰国している間も、Google Classroom で学校からの連絡を受け取ることができるのである。

セキュリティーの問題などICT 化には課題も

一方で、ICT 化を進めるに当たって注意すべきことやデメリットにも目を向けておく必要があるだろう。まず、生徒間や生徒・教師間で容易にやり取りすることができるようになる一方で、外部の機関に問い合わせるといったことも生徒が直接行なえるようになるため、メールやSNS でのコミュニケーションについて、マナーやルールの周知を徹底させておく必要がある。


インターネット上の画像や動画などに自由にアクセスすることができるため、それらを利用する際の著作権の問題についても理解しておく必要もあるだろう。 オンラインで学校や教師・生徒の情報を管理する場合、情報漏洩が起こらないよう、セキュリティーを今まで以上に厳重なものにしなければならない。
特に今後、高速通信5 G の普及により、屋外で動画を配信したり、バーチャルリアリティーを体験するなど、さまざまな可能性が広がることが予測されており、大容量のデータをやり取りすることに対するセキュリティーの強化なども、検討されていくことになるとみられている。

オンラインを活用することで弱点を克服する生徒もいる

コロナの影響で教育現場のICT 環境整備が進んだ。

文科省のYouTube チャンネル「MEXT Channel」では、教育に関するさまざまな動画を視聴できる。

ICT を活用した授業の様子は、文科省が運営するYouTube 公式チャンネル「MEXT Channel」などでも紹介されているので、ぜひそれらも参考にしてみてほしい。再生リストの中の「外国語教育はこう変わる!」というシリーズでは、さまざまな学校の英語授業の様子を収めた動画が公開されている。


例えば、茨城県の高校では、生徒が書いた英文エッセーをプロジェクターで投影し、それらを一緒に読みながら生徒同士で意見を交わすという授業が行なわれていた。これはpeer reading(ピアリーディング)と言い、一人ではなく仲間と一緒に一つの文章を読み、それについて話し合うことで、文章への理解を深めるということを目的にしている。それと同時に、コミュニケーション能力を養うこともできる。動画の中では、教師がその場でデータに手を加えながら英文を添削していた。このように、添削の過程をクラス全員で共有するといったことも可能になる。


このようにデジタル機器を活用することで、従来の授業では伸ばすことが比較的難しかったライティングなどのスキルも、効率よく高めることができるのだ。 機器の性能や教師・生徒のスキルのレベルにより、学校間または生徒間で格差が生まれてくるのではないかという懸念もあるが、逆に、声に出してしゃべることが苦手でも、オンラインであれば自分から気軽にメッセージを発信することができる生徒もいるそうだ。


今後、学校教育のICT 化が、生徒の能力をより引き出すために役立つことを期待したい。

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