ヨーロッパの中央に位置し、多言語・多文化国家スイスの大自然に囲まれた町レザン。スイス公文学園高等部は文部科学省の在外教育施設として、1990年にこの地に開校した。感受性豊かな10代の時期に、親元を離れて仲間や先生と過ごす3年間で何が得られるのか、海外の高校への留学との違いは何か。国際人を育てる同校の教育について、渡邉博司校長に伺った。
――スイス公文学園の特長を教えてください。
文部科学省認定の在外教育施設である本校では、日本の高等学校と同等の卒業資格を取得できます。そのため、生徒たちは本校を卒業後、日本国内をはじめ、世界各地の大学へと進学しています。インターナショナルスクールの要素と日本の高校の要素をうまくミックスさせた学校と言えるでしょう。「海外に目を向けて一歩を踏み出したい。でも、日本の中学校からいきなり海外の高校へ留学するには、英語力や日常生活の面で不安…」という生徒や保護者にとっては、安心して学べる環境が整っています。
海外の高校に留学するのとは違い、英語力を高めながら、日本語や日本文化、歴史などを学ぶことができるのも特長の一つです。生徒たちは日本人としてのアイデンティティーを育みながらグローバルな感覚を身に付けています。
――設立当初から続けてこられた「グローバル教育」について教えてください。
本校では、グローバルに活躍する人材を育てるために、3つの柱を掲げてきました。1つ目は日本語と英語、両方を深める実践的な「バイリンガル教育」、2つ目は、世界で通用する「国際感覚の養成」、3つ目は「寮生活による人間的な成長」です。
グローバルに活躍するためには、多様な価値観を受け入れたうえで、自分の考えを相手に伝えながら問題解決していく力が求められます。ここでは、授業のみならず、寮生活、部活動、課外活動などのあらゆる体験や交流を通してその力を培っていきます。
設立当初から常に、「日本の子どもたちがグローバルな世界に羽ばたくきっかけを作るためにどうしたらいいか」という視点で考え、そのノウハウを築いてきました。日本から飛び出し、自分の足と目で学ぶ環境に身を置くことで、生徒たちは英語を習得するだけでなく、人間的にも強くたくましく成長していきます。
――スイスという地の利を活かし、どのような体験や交流ができますか?
永世中立国であるスイスには、数々の国際機関が集まっています。また、地理的にみてもヨーロッパの中心に位置しているため、ヨーロッパ内での移動もしやすく、生徒たちはオランダ・ハーグで開催される模擬国連や国際音楽祭に参加したり、カナダとの交換プログラムやスポーツを通じて世界各国の学生と交流したり、国際ボランティア活動に参加したりするなど、世界の学生と交流し、学ぶ機会が多くあります。
また、オープンハウスと呼ばれる文化祭では、地元の人たちに書道や茶道などの日本文化を伝える活動もしています。このような活動は生徒にとって、日本人である自分と向き合う良い機会となります。他にもスクールトリップやNGO、JICA との連携によるボランティアトリップなど、さまざまな活動が用意されています。
――英語を学ぶ環境や授業について教えてください。
学校での公用語は英語です。全校集会なども全て英語で行なわれます。教員の半分が外国籍のため、生徒は教員との関わりの中で日々、国や文化による価値観や感覚の違いを感じ取ることできます。
英語の授業は、ネイティブ講師による少人数制で行ないます。生徒一人一人のレベルに合わせて英語力を高めるプログラムを用意しているため、日本の中学卒業時レベルの英語力があれば問題ありません。また、英語教員のほとんどが日本での指導経験があるため、日本の英語教育を踏まえて指導にあたっています。読む・書く・聞く・話すの4技能をバランスよく学んでい きます。
授業のスタイルは欧米の大学のように対話が中心です。常に生徒たちに「あなたはどう思う?」と投げ掛けながら授業が進むため、自ら考えて答える力が自然と身に付きます。また、プレゼンテーションを行ないながら表現力や発信力も磨いていきます。
さらに、数学や社会などの一般教科を英語で学び、英語でフランス語や美術を学ぶ授業もあるため、海外の大学へスムーズに進学できるような基礎力、応用力を養うことができます。
――生徒はどのような場面で大きく成長しますか?
やはり一番成長するきっかけになるのは、親元から離れて寮生活を送ることだと思います。なぜなら、自分にとって予期せぬことや不都合なことが起きたときに、逃げられない環境にあるからです。他人に対しても自分に対しても、正面から向き合わざるを得ません。それが生徒の人間性を大きく成長させます。何を相手に伝えたらいいのか、どう振る舞ったらいいのか…。最初は戸惑う生徒たちも次第にお互いを尊重し合う大切さや自立の精神を学んでいきます。
――3年間の寮生活により、生徒たちに起こる変化とは?
寮には職員も常駐していますが、基本的には生徒の自主性を重んじています。そのため、困ったときは学年を超えてお互いに助け合う関係性が生まれます。礼儀を弁えながらも、非常にフラットな雰囲気です。生徒たちは、同室のメンバーだけではなく、クラスメートや部活動の仲間など、いくつかのコミュニティーに属しています。その中で、あらゆる役割や立場を経験し、コミュニケーション力を高めていきます。3年間の寮生活を通して、人を気遣う優しさと同時に、多少のことでは動じない強さと柔軟性を身に付けます。卒業時に、その変化を一番実感されるのは保護者の皆さまです。一回り大きく成長したわが子の姿を目にして、「行かせてよかった」と口々におっしゃいます。
――卒業後の進路は?
例年、卒業生の3割が海外の大学へ、7割が国内の大学へ進学します。進学先は国際系学部、文系、理系、理工学系、医歯薬系、芸術系など多彩です。また、海外の進学先としては北米、ヨーロッパ諸国、オーストラリア、マレーシア、中国など世界各国へ広がっています。進路指導にあたっては、1年生のガイダンスの時点で、進路を「日本」または「海外」にするかを生徒一人一人が決めます。海外進学を希望する生徒には、専任の担当者が各国の受験制度に応じたサポートを行ないます。卒業生が進路の体験談や海外での就職事情を話しに来てくれることもあり、在校生の貴重な情報源になっています。
――育てたい人材像を教えてください。
本校が大切にしているのは、偏差値や知名度で進路を選ぶのではなく、まず自分がしたいことは何か、何ができるのかを考え、自分を見つめ、将来に目を向けて進路を選ぶことです。卒業後も、世界を視野に入れながらチャレンジし続ける人材に育ってほしいと願っています。