留学支援制度の充実や外国への関心の高まりにより、留学する高校生・大学生の人数が年々増加している。文部科学省と民間企業・団体が官民協働で実施する留学支援キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」。フラッグシップ・プロジェクトである「日本代表プログラム」では、2014年からこれまでに約7,800人もの留学生に奨学金などの支援をしてきた。そのプロジェクトマネジャーの荒畦悟さんに、留学することの意義や、同プロジェクトのこれまでの成果などについてお話を伺った。
「短期の語学研修に限らず、高校生にもさまざまな留学の機会が開かれています。大学受験前の高校生にこそ、海外に出て広い世界を知り、自分の選択肢を見つめ直してほしいと考えています」と、荒畦さん。プロジェクトの企画に6年間携わってきた。
「日本代表プログラム」は高校生・大学生を対象としているが、成績や語学力は一切不問。「あらかじめ留学計画書を提出してもらい面接を行ないますが、留学にかける“熱意”と、自分なりの“コンテンツ”を持っているかどうかを重視します。自分の住んでいる街の課題、趣味など何でも構いません。海外に出て自分の思いをかなえたいという人を応援しています」。
高校生1人に平均50万円(平均滞在期間1ヵ月)、大学生1人に平均150万円(平均滞在期間9ヵ月)の返済不要の奨学金を支給。留学中は「アンバサダー(大使)」として日本の良さを伝える活動を行ない、帰国後は「エヴァンジェリスト(伝道師)」として、海外の魅力や留学で得た経験を国内で伝える活動を行ない、グローバルに活躍するリーダーを目指す。
これまでに、高校生2,685人が70ヵ国以上、大学生5,116人が110ヵ国以上に滞在。留学先は英語圏やアジア・欧米諸国のみならず、アフリカ、南米、中東など実に多様だ。「高校生の留学は2週間から1年間までとしています。これまでに中米のドミニカ共和国に野球を学びに行ったり、アフリカのウガンダでEラーニングの市場調査を行なったりした例があります。しっかりした計画があれば、必ずしも現地で学校に通う必要はないのです」。
奨学金は全額、企業や個人の寄付によるもの。グローバル人材を育成する機会として、企業からも高い関心が寄せられている。「海外の都市や生活を自分の目で見ることで、皆日本に対する危機感を抱きます。アジアやアフリカの国々で新しいことに挑戦している若者たちは、『将来、自分がこの国を背負って立つ』という大きなビジョンを持って活動しています。留学に出た高校生は、大学受験や就職だけが人生の目標ではないということに気づいて日本に帰ってくるのです」。
もちろん、留学中はさまざまな困難に直面することがある。大きな期待感を持って出発しても、現地に到着して間もないころは、「英語がうまく話せない」「食べ物が合わない」等、意欲が一気に下がることがあるそうだ。「そこから自分なりの方法でモチベーションを取り戻すことができるかどうかが、大きなカギとなります。慣れない環境の中で、自分の力で意欲を取り戻し、留学の目標を達成することができるかどうか。これまでの“トビタテ生”のほとんどがそれを乗り越え、大きな自信をつけて帰ってきました」。
大学生の留学生の中には起業を志す人も少なくなく、インドに留学して現地でファッションショーを開催、帰国後はアパレルブランドを立ち上げてインドの女性が手縫いした衣服などを販売している例もあるそうだ。
「事前・事後研修や帰国後の成果報告会などを通して、同じように高い志を抱く仲間と出会い、情報交換することができるのも、大きな魅力です。就職に役立つこともありますが、それ以上に、留学は人生を変える大きなきっかけとなるのです」。
「自分なりの留学」に関心を持った人は、「トビタテ!留学JAPAN 留学大図鑑」(https://tobitate.mext.go.jp/zukan/)にアクセスして、過去の体験談を検索してみよう。例えば食べ物に関連した留学に興味があれば、「食」というキーワードで検索すると、さまざまな国での食に関連した留学体験を読むことができる。また、以下に掲載する「トビタテ!留学JAPAN」のSNSなどを参照し、今後の留学計画の参考にしてほしい。
●Facebook: https://www.facebook.com/ryugakujapan/
●Twitter: @ryugakujapan
(ハッシュタグ「#せかい部」では高校生向けの情報を発信)
●Instagram: @tobitategram
※「トビタテ!留学JAPAN」公式ホームページ: https://tobitate.mext.go.jp/
※本記事は1月30日のインタビューによるものです。日本代表プログラムの新型コロナウイルスへの対応についてはHPをご確認ください。
大西翔太さん
学校名:北陸先端科学 技術大学院大学
留学先国:インド、台湾、アメリカ
テーマ:シビックテックの海外インターンシップ
市民コミュニティーがITを活用して社会の課題解決を行なう「シビックテック」の調査をしてきました。地方の出身で周りに留学を志す人は多くなく、大学院2年の時だったので「もう遅いのでは」という気持ちもあったのですが、SNSなどで情報を収集し、留学に遅過ぎるということはないということに気づきました。留学で新しい出会いもあり、自分の世界が大きく広がりました。【より詳しい体験談】
中川千絵美さん
学校名:横浜市立大学
留学先国:フィリピン
テーマ:教育支援プロジェクトの海外インターンシップ
東京の国際人権NGOでインターンシップをしていたのですが、知識ばかりの“頭でっかち”になってしまっているように思い、現場を知るためにフィリピンへ留学。通常の授業からドロップアウトした生徒が中学校卒業を目指すプロジェクトに携わりました。「自信がなくても、とにかく行動する」という気持ちで取り組み、この言葉は今でも私の指針となっています。【より詳しい体験談】
藤井里奈さん
学校名:上智大学
留学先国:ドイツ
テーマ:難民支援の交換・認定留学
ハイデルベルク大学で学びながら難民支援施設でボランティア活動を行ない、弁護士事務所でのインターンシップも経験しました。ドイツでの難民支援の手厚さを目の当たりにし、これからの人生でずっと大切にしていきたい出会いもありました。東京オリンピックではドイツ選手団のボランティア通訳を務めることになっています。【より詳しい体験談】