「しーっ!」と、私はそっと箸を置いて、耳を澄ませた。まただった:間違いなく、小さな足が走る足音だ。私たちの上から聞こえてくる。「ザ・ポータル」から聞こえてきていた。
「ザ・ポータル」は、私たちが住んでいる古い家の階と階の間にある断熱材の入っていないとても広い空っぽのスペースのことを指した私たちの呼び方だ。ここには以前、コウモリが住んでいてた。そしてどうやら、4月の大雨の後に他の住人が到着したようだ。私たちはふさふさした尻尾と鋭い爪がたてるような音を耳にしていた。
その動物が何なのかまだ特定できないでいるとき、私は自動的に、それはたくさんの動物の恐ろしい組み合わせ―キメラ―であると想像する。古代ギリシャのキメラは、背中にヤギの頭が付いて、先端がヘビの頭になった尻尾を持った、火を吹くライオンだった。私たちの家のキメラはたぶんそれではなかったが、恐怖にかられると人は理性を失った考え方をするようになる。私たちはパニック状態で不動産業者に電話をした。
翌日、私たちの家に白い防護服を来たプロのイタチ駆除業者の少人数のチームがやってきた。近所の人々には、きっと彼らが事件現場の清掃班のように見える思ったことだろう。近所に引っ越してきたばかりの外国人2人にとっては、あまり良い印象ではない。イタチ駆除業者のチームは、彼らが見つけた全ての穴をふさぎ、それからガスを放出したが、イタチを追い出すことができなかった。彼らは帰る前に、人道的な方法でイタチを捕獲するためにケージを外に設置した。彼らが帰ってから1時間もたたないうちに、大きな「バン」という音がした。イタチが罠にかかった。古代のキメラよりもずっと小さくて、かわいらしかった。
イタチ駆除業者の人たちは翌日までイタチを取りにくることができなかったので、イタチは外で一晩過ごした。イタチが少しかわいそうにも思えた。その晩、夜中にベッドで横になってイタチの気持ちを考えていると、このイタチの初めての甲高い鳴き声が聞こえた:「キ、キ、キー!」。1日中静かだったので、私は調べに行った。するとそこで、何が問題なのか理解した。そのイタチは宿敵に嫌がらせをされていた。私たちが「ボス」というニックネームを付けた近所の大きな野良猫がイタチを見つけて、ケージのところまでやってきていた。その運命をあざ笑うためだろうか。私はボスを追い払うために、指の関節でガラスをコンコンとたたいたが、ボスは私のほうを見ただけで全く無関心で、この叫んでいるイタチを見つめ続けていた。その夜はおそらく、近所中の人が眠れない夜を過ごしたであろう。
翌日、私たちはイタチに謝り、さよならを告げた。私たちは今、6年半を過ごしたこの家から引っ越す準備をしているが、壁の中からひっ掻く音が聞こえている。今回は、白装束のあの人たちを呼ばないでおく。壁の中に何がいようとも、それが他との関わりを避けて、そこでじっとし続けてくれることを願う。