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安河内 哲也さんスペシャルインタビュー

グローバル教育特集

 

英語4技能を身に付けるには、まず「話す」ことから始めよう

思考力や表現力がより問われる「大学入学共通テスト」が始まり、英語については「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を同時に伸ばすことが求められるなど、高校生・大学生を取り巻く学習環境は大きく変化しつつある。しかし、新型コロナウイルス感染の影響により、外で人と会って「話す」「聞く」活動を行なうことがままならない状況が続いた。今の若者は英語学習とどのように向き合えばよいのか、中高生から社会人まで絶大な人気を誇る英語指導者・安河内哲也先生に聞いた。

「話す」力を鍛えると4技能が同時に伸びる

「スピーキングを中心に学ぶべき」と安河内先生は語る。 COURTESY OF TETSUYA YASUKOCHI

「スピーキングを中心に学ぶべき」と安河内先生は語る。 COURTESY OF TETSUYA YASUKOCHI

「英語学習は4技能を同時に身に付けるのがよいとされていますが、英語はやはり、『音』を中心に学ぶことが大切です。特に、私は『スピーキング』の学習が非常に重要だと考えています。英語を習得するには、まず、『音を聞いて出す』『話す』ことから始めましょう。それができれば、それを文字にして書くことができます。話せば聞く機会もあり、聞くことができれば英文の理解力がついて読む力も伸びます。音で学ぶことを中心に、相乗効果によって4技能全体を伸ばすことができるのです」と、安河内先生は勧めている。


通常、「英語を話すには、まず単語やフレーズを覚えてからでないと」と思うかもしれないが、先生は、「それでは、いつまで経っても話せるようにはなりません」と言う。「単語や表現は、話しながら覚えていくんです。例えば、外国人と話をするうちに、『新型コロナウイルスって、英語で何て言うんだろう?』『“ワクチンを接種する” を英語で表現するには?』といった疑問を抱き、自分で調べていくようになります。英語を話すことは、学ぶためのモチベーションを高めることにもつながるのです。話す機会を重ねているうち、自分が言いたいことを伝えるために必要な英語表現を、次第に増やしていくことができます(※「新型コロナウイルス」はnovel coronavirus、「ワクチンを接種する」はget vaccinated)。

浪人時代の講師から「音」で学ぶ楽しさを教わる

先生自身、今も1日25分のオンライン英会話レッスンを毎日受講し、「話す」機会を欠かさないようにしているそうだ。「私が子どもの頃には、生の英語に触れる機会はほとんどありませんでした。今はインターネットを利用していつでも英語の音声に触れることができるのですから、これを生かさない手はありません」。

先生は、福岡県北九州市の生まれ。小中高と公立の学校で、「英語の授業では、単語を覚えたり文法を学んだり、英文和訳をするだけ。話すための英語に触れたという記憶はありません」。


先生が中学・高校時代を過ごした1980年代は、アメリカの映画や音楽に、世界中で絶大な影響力があった。「ジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』などを見て、アメリカの文化に憧れましたね。音楽は、マイケル・ジャクソンやマドンナが全盛の時期。誰もが、彼ら・彼女らの英語を聞き、それを理解したいと思っていたんです」。


先生は、学校の教科書ではなく、アメリカの映画や音楽から、生きた英語を学ぶことを目指していた。特に、「音」で学ぶことの楽しさに気づかせてくれたのは、1年間の浪人時代の予備校講師だという。「音読をする、先生の話す英語を繰り返して言うといった勉強法を教えてくれたのです。『英語にはこういう学び方もあるのか』と、一気に勉強が楽しいものになっていきました」。

アメリカで出合った“デタラメ英語” が飛躍のきっかけに

「他の勉強はダメでも、英語だけはそこそこの成績だった」という先生は、上智大学外国語学部英語学科に進学した。しかし、そこで思いがけず大きな挫折を味わうことになる。「クラスに帰国子女の学生がたくさんいて、皆、普通に英語が話せるんです。机からペンを落とすと、“Oops.”(おっと)とか言うんですよ。もう、別世界の人のように思えました」。


当時は、海外留学は現在のように一般的ではなく、「アメリカに行けば、自然に英語が話せるという“都市伝説” のような話があるらしい。それなら行ってみようじゃないか」と、大学2年の夏休みを利用し、約3ヵ月かけてアメリカを一周する旅に出た。しかし、着いてから実感したのは、「外国にいるだけで話せるようにはならない」ということ。「周りの人は皆英語を話しているけれど、自分は話せるようにならない。これじゃ、大学の教室で帰国子女に囲まれているときと同じだと思いました」。 しかし、このアメリカ旅行中に、大きな転機が訪れた。お金をかけずユースホステルなどに泊まっていたところ、ヨーロッパやアジアからの若い旅行者が気軽に雑談をしているのを聞いて、「なんだ、みんなの英語はデタラメじゃないか」と気づいたのである。「外国の人は、時制や数の一致なんて気にしない。デタラメな英語でも、楽しそうにしゃべって会話が成立している。『それなら、私もデタラメでいいからしゃべってやろう』と英語の会話に加わったところ、しゃべることの内容が面白かったのか、いつの間にか話の輪の中で人気者になっていたんです」。


自信をつけて帰国した先生は、大学の授業のプレゼンテーションでも、“デタラメな英語” で堂々と発表を行なうようになった。「それでもネイティブの先生が、『君の発表は素晴らしい』と言ってほめてくれるんです。その後、成績はずっとA+(※最高評価)でした。そのとき、ようやく分かりました。『ネイティブは、英語が正確かどうかなんて気にしない。まず、中身が大事なんだ』と」。


しかしながらデタラメを放置したわけではなく、発音や文法を学び、次第に正確な英語が身に付くようになり、大学4年のときに英検1級を取得した。そして、大学時代から始めた塾講師のアルバイトがきっかけで予備校「東進ハイスクール」にスカウトされ、そこで一躍人気講師となったのである。

その後、英語学習書を数多く執筆し、予備校や高校・大学などで多数の生徒に指導を続け、約30年間、英語教育の世界で第一線の地位にある。「でも、私は大変な回り道をしたと思います。『読む』『書く』という勉強に膨大な時間を費やし、そこから『話す』『聞く』という力をつけていくのに非常に苦労しました。もし、最初から『音』を中心とした学習をしていれば、学習の労力は3分の1くらいで済んだのではないかと思います。それが、今の高校生・大学生の皆さんに、まずは音を使って、話すことから始めてほしいと考える大きな理由なんです」。

スマートフォンを活用してデジタル英語学習

インタビューはオンラインで行なわれた。

インタビューはオンラインで行なわれた。

今の若者は、スマートフォンを日常的に使っている。そこで先生は、英語学習にデジタルを最大限に活用してほしいという。「Speech-to-Text(STT)といって、スマホには話したことをテキストに変えてくれる機能があります。これを使うと、頭で考えて作文しなくても、瞬発的に書く練習ができるようになります。私は今、メールを書いたりSNSでメッセージを送ったりするときは、たいていこのSTTを使って、スマホに話し掛けることで英文を作成しています」。スマートフォンには、Text-to-Speech(TTS)といって、書かれている文章を読み上げる機能もある。「リスニング力を鍛えたいと思ったら、このスマホの機能を使って、ニュースや小説などを聞いて理解するようにすればいいんです。電車の中や歩きながらでも、いつでもリスニングすることができます」。また、今のオンライン英会話は、1 ヵ月のレッスン料が6,000円台からと、比較的安価である(※料金はコースにより異なる)。「オンライン英会話は、パソコンとヘッドフォン、もしくはスマホがあればいつでもどこでもレッスンを受けることができます。毎日が難しければ、週1回、2回でもいいんです。外国の人と直に英語でコミュニケーションを取ることができる。これだけでも、大きな意義があります」。オンライン英会話のレッスンでは、自分の好きな話題について講師とディスカッションすることもできる。ニュース記事などを読んでそれをレッスンのテーマにすれば、リーディング学習にもつながるのである。


新しく始まった大学共通テストではリスニングの比重が高まるなどの変化が見られるが、先生は「受験はまだ読み書き中心」と考えている。「大学受験のために、単語を覚えたり文法の勉強をしたりしなければならないことも多いかもしれません。しかし、英語の勉強はそれがすべてではないのです。机の上の『読む』『書く』で4技能のうち2技能を身に付けているとしたら、『聞く』『話す』は、YouTubeや Netflixなどのインターネット動画配信サービスやオンライン英会話などを利用し、自分の力で伸ばしていけばいい」。


先生と共に仕事をするスタッフの中に、「話す」活動が好きで高校時代には英語が得意だったが、理系の大学に進学したところ、週1回行なわれる英語の授業は教師が教壇で説明をするだけで、「一気に英語力が落ちてしまった」という人がいるそうだ。「そんなときに役に立ったのが、やはりオンライン英会話でした。学校に頼っているだけでは、力は伸びません。自分で聞く・話す機会を設けるようにすれば、4技能を同時に、全体的に伸ばすことができるようになります。

英語の会話を楽しむことが自分への 「ごほうび」

意外に思う人もいるかもしれないが、先生には “留学経験” がない。「アメリカに行ったときに、外国にいるだけで英語が話せるようにはならないと分かったので、日本での勉強を重視しました。しかし、今にして思えば、留学はぜひ一度経験するべきです。日本と異なり、クラスの中で学生や教授が活発に意見を交換し合う外国の大学の授業で、いい刺激を受けることができるはずです」。


新型コロナウイルス感染の影響により、海外研修が実施できなくなり、学校の外で外国人と気軽に話をする環境を持つことが難しい状況が続いた。しかし、先生は「この機会に、ぜひインターネットを活用してください」と言う。「日本だけでなく、世界中の人がオンラインでやり取りするのが当たり前のこととなり、いまだかつてないほど、世界が身近な存在になりつつあります。外国の人といつでもどこでも、英語でやり取りするチャンスがあるのです」。 特に現在は、アメリカやイギリスだけでなく、フィリピン、シンガポール、マレーシアなど、さまざまな国の人々と英語で話す機会が増えている。「相手の英語にクセがあるのですから、自分にも日本人としてのクセがあって当然。必ずしもネイティブのように話せる必要はなく、積極的にコミュニケーションを取ろうという姿勢があることの方が大切です」。


英検1級・TOEIC990点・国連英検特A級取得と、英語学習においてこれ以上ないレベルを極めた先生が今も毎日オンライン英会話のレッスンを受けている大きな理由は、純粋に「楽しい」からだという。「ずっと続けているうちに講師と気軽に話ができるようになり、レッスンと言っても、友達を相手にしゃべっているような感覚です。私は、英語学習にはかなりの時間とお金をかけてきたつもりです。でも、そのおかげで、今こうして、外国人との会話を自由に楽しむことができます。これは、一種の自分へのごほうびだと思っているんです」。

プロフィール

安河内 哲也(やすこうち てつや)

1967 年福岡県北九州市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。東進ハイスクール・東進ビジネスクール英語科講師。一般財団法人実用英語推進機構代表理事。文部科学省の英語教育に関する審議会で委員を務めた経験もある。著書に『英語が話せるようになりたければ、今すぐオンライン英会話をやりなさい!』(NHK 出版)、『話す・聞く・書く・読む 4技能に効くはじめての英語音読』(ジャパンタイムズ)、『安河内の英語をはじめからていねいに【完全版】』(ナガセ)など。

 

安河内先生セミナー情報

本特集でインタビューをした安河内哲也先生によるオンラインセミナーを開催します。テーマは「これからのグローバル・コミュニケーション–– コロナ禍でも学びを止めない」。

コロナウイルスの影響でコミュニケーションや学習環境に大きな変化が起こる中、これからのグローバル・コミュニケーションはどう変わっていくか、また英語学習はどのように進めていくべきか、などについてお話しいただきます。

  • 日時:6月19日(土)11:00 ~ 12:30
  • 場所:オンライン  (Zoom での開催を予定しています)
  • 参加費:無料
  • 申込方法:下記URL にアクセスの上、詳細をご確認いただきお申し込みください。
  • 申込URL:http://jtimes.jp/gedu2021

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