獨協大学には、日本で唯一の「国際環境経済学科」(Department of Economics on Sustainability)が置かれている。地球環境問題や開発・貧困問題について経済学の視点から解決策を考え、持続可能な社会の実現を目指し、地域社会や国際社会に貢献できる人材を育てるのが狙いだ。現地視察のため毎年海外ゼミ合宿を行なっている木原隆司教授に、その詳細を伺った。
――国際環境経済学科で学ぶことを教えてください。
JICA ラオス事務所の前でゼミ生たちと。前列中央左が木原教授。
国際問題に関心があり、単に外国語を学ぶのではなく、環境・開発の問題に取り組みたいという高い意識を持つ学生のために、基本的な理論から援助の実際までを実践的に指導します。経済成長論など、国際社会を理解するのに必要な数学的知識を基礎から身に付けるため、数学が得意ではない学生も、海外での援助活動に求められる能力を付けることが可能です。
また、国内外でのフィールドワークの機会が多く、実際に国際機関を視察し、現地の人々と意見交換を行ない、グローバルな課題を肌で感じることができるのが大きな特色です。私のゼミではベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオス、タイなどへの海外合宿を実施し、現地のさまざまな機関の視察を行なってきました。
――海外ゼミ合宿では、どのようなことを行なうのでしょうか。
2年生から、徹底的な事前準備を行ないます。世界銀行やアジア開発銀行(ADB)が発表している英語レポートを読み、世界やアジア地域が現在抱えている諸問題を把握します。さらに世界銀行東京事務所やJICA(独立行政法人国際協力機構)を訪ね、ODA(政府開発援助)の担当者たちに話を聞きます。
3年次に実際に海外を訪問します。昨年は、「貧困が見えない国」といわれるラオスとタイを訪問しました。都市部だけを見れば、一見開発が進んでいるように思えますが、農村部との差が大きく、国全体の教育や健康の水準は上がっていません。私たちは、アジア開発銀行ラオス事務所、世界銀行ラオス事務所などを訪問し、開発プロジェクトの担当者から直接説明を受けました。また、JICA 担当者とともにラオスの小学校を訪ねたり、タイで大規模な太陽光発電の施設を見学するなどしました。広大な敷地一面に設置された太陽光パネルは壮観でしたが、「近隣の都市の4分の1の世帯の電力をまかなうのが精一杯」と聞き、自然エネルギーのみに頼るのがいかに難しいか、実感として捉えることができました。
――学生たちの活動の様子を教えてください。
アジア開発銀行ラオス事務所の職員の話を聞くゼミ生たち
現地のプロジェクト担当者への質問は、あらかじめ自分たちで考えて用意していきました。「全学共通カリキュラム英語部門」(全カリ英語)によって基礎力を鍛えると同時に、専門分野のIntroductory Lectures によって、ほぼすべて英語による講義を受けているため、資料を英語で読んだり、英語のプレゼンテーションを聞いて質問する、といったことはできるようになっています。ラオスではメコン川の護岸工事現場を訪ね、「どのように川岸の土が海に持っていかれるのを防いでいるのか」「浄化システムはうまく機能しているか」など、非常に具体的な質問をすることができました。
帰国後はチームごとに報告書をまとめ、学内だけでなく視察先各機関へも届けています。また、獨協大学環境週間“Earth Week Dokkyo” で、一般向けの報告会を行ないました。
学生たちの意識は非常に高く、卒業後は海外の大学院を目指す者、外国の企業に就職する者、国内の企業で海外プロジェクトを任される者など、さまざまです。日本の企業はアジアの開発途上国に高い関心を抱いており、大学で学んだことをまさにそのまま仕事に生かすことが可能です。
――木原教授のご経歴を少々お教えください。
私は一橋大学商学部卒業後、大蔵省(現・財務省)の国際金融局配属となり、ほぼ一貫して国際公共政策の策定・交渉・運用に携わってきました。アメリカ・ワシントンDC の米州開発銀行やスイス・ジュネーブの国際機関代表部に派遣されていたこともあります。長崎大学・九州大学を経て2013年から獨協大学で教壇に立っていますが、どこの大学でも、学生よる海外ODA 視察研修を実現させてきました。NGO 訪問やボランティア体験ではなく、実際に開発援助プロジェクトを担当している国際機関職員の生の声を聞く、他にはない体験を学生に提供しています。
幼少期よりガールスカウトの活動に参加していた経験から、漠然と世界で活躍する女性に憧れていました。特に発展途上国や東南アジアに興味があり、開発経済学を学ぶことのできる木原ゼミに入りました。開発援助機関訪問やカンボジアでの海外演習では実際に援助に関わっている担当者の方から話を聞くことにより、日本と開発途上国が密接につながっていることが分か
りました。また自分が発展途上国や東南アジアに興味を持ったように世界中に日本文化に興味を持っている人が数多くいることを知りました。獨協大学には外国人に日本語を教える教員を養成する「日本語教員養成課程」があり、私は副専攻として修了し、卒業後はインドネシアで日本語教師のアシスタントとしてキャリアをスタートします。私が木原ゼミで学び国際社会に貢献したいと思ったように、日本語教育が学生にとっての世界へのきっかけになればいいなと思います。
荒井みなみさん
マララ・ユスフザイさんの行動に感銘を受け、発展途上国の問題について勉強したいという思いから国際環境経済学科への入学を決めました。海外で働くことに興味があって、ある授業で縁あって海外インターンのことを知り、「これしかない」と思って授業後に講演者にメールをしました。その後、翌年の春にはカンボジアに渡り、現地のホテルで2ヵ月ほど働きました。木原ゼミでは開発経済学について学び、知識を深めていきました。グローバルな環境に身を置き、いろんな人に出会い、刺激を受けながら仕事をしたいという願望があったので、卒業後にはインドの企業で働くことを決めました。今までいろいろな経験をし、今の自分があるのは自分の行動力と人との出会いが非常に大きく影響していることを実感しています。自分も何か影響を与える人になれたらいいなと思います。インドでの生活や仕事は全く未知ですが、Give it a shot!